書籍「自殺の対人関係理論:予防・治療の実践マニュアル」(トマス・ジョイナー他著)の翻訳本が日本評論社から刊行されました。
自殺は、その人自身の健康問題であるばかりでなく、残された家族の問題ともなります。従来、自殺関連の書籍は多数ありました。しかし、臨床の現場での対応に結びついたガイドブックは皆無であったといえます。
フロリダ州立大学の心理学科の教授 Thomas Joiner と彼の研究グループの近年の研究報告はいつも斬新なものであり、注目していました。そして、昨年に彼らの理論を踏まえた臨床治療マニュアルがアメリカ心理学会から刊行されたのが本書 The interpersonal theory of suicide: Guidance for working with suicidal clients です。この著書の魅力は、彼らの研究成果と研究理論を臨床上の評価や支援手法に統合した点です。自殺危険性の発生機構、危険性の予測方法、危機介入の手法、予防措置までを、ひとつの理論で概観できるこころみは稀です。さっそく日本語翻訳を申し出たところ快諾を得ました。
本書の第1章は、自殺の診断に焦点を当てています。診断を自殺のリスクに結びつける理論を展開し、そしてその理論を用いて、なぜ特定の精神障害が自殺に関連しているかについて説明しています。第2章は、自殺リスク評価法の説明です。どのような情報を得るべきか、その情報をどのように適切に収集・分析するかについて、理論に準拠した提案をしています。
第3章から第5章が本書のハイライトです。第3章では、危機の際(=クライエントが「もう死にたい」と言った)の実際的介入方法を、理論に準拠してわかりやすく解説しています。現在の危機の苦しみを緩和し、危機の苦しみを耐えられる範囲のなかに納める様々な技法(それも、誰もが明日から使える技法)を、実例をつけて詳述しています。第4章は、自殺行動に有効な治療法に焦点を当て、対人関係理論のレンズを通して様々な対応アプローチを概観しています。その上で、対人関係理論のすべての要素に直接に的を当てたアプローチについて詳細に説明しています。この部分の臨床例もわかりやすく応用可能です。さらに第5章では、治療関係に焦点を当て、最適な治療的かかわりについてより詳細に探究しています。
第6章では、自殺防止と公衆衛生活動について述べています。最終章では、自殺患者に対する臨床作業の総合的な主張を、理論に基づいて展開しています。