症状評価法と診断学

かつては、精神科領域における症状・診断の評価は医師・面接者の主観にまかされる傾向にありました。私の症状学・診断学の研究は1970年代後半にはじまります。

まず、精神症状に関する信頼性のある評価方法を網羅的に概観し、うつ病などについて総合的評価法を確立しました。次に、国際疾病分類 (ICD-10) の日本における適応を容易にするため、精神疾患の文化的特徴も考慮した日本版 ICD を作成しました。

精神疾患の研究・臨床の基礎は確度の高い症状評価と診断手技です。
これまでの研究は DSM など、世界標準で開発使用されている評価法・診断基準の研究を行なってきました。しかし従来の評価法や診断基準で扱われてこなかった概念も残されています。

ここには文化特異的なものや、世界的に見ても十分な研究がなされてこなかったものが含まれます。文化特異的なもののひとつが対人恐怖であり、地域研究からその特徴を明らかにしました。
精神科診断は文化に加えて個人や社会の価値観が重要な意味を持つことについても、倫理学的考察を行ないました。

また、世界共通の心理状態ではあるものの精神病理学的研究が不十分なものとして悲哀反応(愛する人を死によって亡くした後の心理変化)があります。悲哀反応の評価方法について概観した上で、操作的診断基準を用いることで病的悲哀 pathological grief の診断が正確に行なわれうることを示しました。

厚生労働科学研究「気分障害の長期追跡調査」のデータをもとにした解析作業が10年来、綿々と続けられてきました。そして、症状面の回復と社会機能の回復の関係、うつ病の再発までの期間、ruminative coping とうつ病の持続期間について報告しました。

精神症状や心理状態の評価方法の開発は精神医学研究の基礎作業です。
正確な評価方法なしに実証的臨床研究は行なえません。

われわれは, Psychological Well-being Inventory、Self-rating Depression Scale、Family Adaptability and Cohesion Evaluation Scale、Parental Bonding Instrument、Scale of Egalitarian Sex Role Attitudes、Rape Myth Scale、Inventory of Personality Organization、Hospital Anxiety and Depression Scale、Social Adjustment Scale など多くの尺度の psychometric properties の確認を行なっております。

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