精神疾患の疫学

さまざまな精神疾患が地域住民や特定の属性を有する人々のなかにどれほど存在するかを知ることは、その疾患の原因追求、治療法や予防法の開発、健康行政施策の設定にとって基礎的で不可欠の情報です。われわれは全国に先がけて、精神科疫学調査を行ってきました。

地域に住む人々の中でどの精神疾患がどれほど認められるのか(有病率・罹患率)の研究を行い、さらに全国多施設共同研究による周産期(妊娠期間+産後)精神疾患の疫学調査を実施しました。
その結果、妊娠うつ病の罹患率が5.6%、産後うつ病の罹患率が5.0%であることを報告しました。

さらに、出産後の児童虐待についてもいくつかの予備的報告を行ないました。
甲府プロジェクト、御殿場プロジェクト、企業プロジェクト、習慣性流産プロジェクト、南極プロジェクト、産後うつ病共同プロジェクトはその中核を同じくする面接手法を独自に開発し、利用しています。

精神疾患を有していても自ら受診する人の率が低い[うつ病で10%]ことから、地域に居住している非受診人口を対象とする疫学調査が必要であることがわかります。これまでに、主として感情障害、不安障害の頻度(罹患率、有病率)を求め、その発症危険因子を同定しました。


また、精神科診療所での診察が「濃厚」(1回の診察が長く診察間隔が短い)なほど患者満足度が高く、このことが患者の抑うつ不安を低減させるが、診察の「濃度」が直接に抑うつ不安をさせるものではないことも見出しました。

この所見は、日常診療の場面において十分な時間を割いた外来カウンセリングが治療有効性を有していることと、さらには、単に時間を費やせばよいのではなく、「治療同盟」に相当する治療者・患者関係の構築が介在していることを示した最初の報告です。